焼杉板と漆喰の立派な壁と瓦屋根。現代風の町屋を思わせる和風の家がＩ邸です。日本家屋かと思いきや、大きな玄関の引き戸を開けるとイメージが一転。美しい無垢の木をふんだんに使ったモダンな空間が現れます。広い廊下の先に見えるのは、ナラ材に包まれたナチュラルなＬＤＫ。はじめて訪れた人は、オーベルジュに来たのではないかと勘違いしそうなほど、センスにあふれています。実は、完成した家を見た時にＩさん夫妻も同じように驚いたそうです。というのは、ご夫妻からはほとんどリクエストを出さす、工務店におまかせして建てたからです。
　ご夫妻が家を建てようと決めたきかっけは２つあります。１つはご主人の実家の近くで土地が見つかったこと。もう１つが、信頼できるプロと知り合いになったことです。それが前川材木店の社長。仕事を通じて知り合ったご主人が前川社長の人柄と実績に惚れ込み、家を建てるにあたってご夫妻からは「落ち着く和風の家にしたい」というリクエストだけを出したそうです。
　すべてを任された前川社長は「やりたいことを全部やらせてもらった」と充実した顔で家づくりを振り返ります。リビングに高級感をもたらす黒いタイル、板を吊るしたリビングの照明など、家の中には社長のさまざまなアイデアがあふれています。一番頭を悩ませたのは、南北に長い土地ゆえの採光と風通し。その解決策として、真ん中に中庭を設けました。中庭からの光で、家の中は明るく照らされています。
　Ｉ邸のもう１つのコンセプトが、住むほどに味わいが深まる家にすることです。アプローチに、あえてアンティークの長石を配しているのも、数年後の雰囲気を見越してのこと。木の風合いが深みを増した10年後のＩ邸の姿も楽しみです。